愛犬 しつけ

愛犬はこうやってしつけよう!

問題犬をつくるのは飼い主

 

人が人になるためには、人によって教育されなければならない。そうして初めて、実社会の構成員としての人になれる。このことに異議を唱える人は、おそらくいないだろう。

 

では、この「人」を「イヌ」に置き換えたとするとどうなるでしょうか? イヌがイヌになるためには、イヌによって教育されなければならない……。イヌは生まれたときからイヌである。しかしそのままでは「イヌ」になれないのである。

 

ある著名なアメリカのドッダートレーナーが、日本人向けの研修会でこう語ったという。

 

「問題犬の本当の問題とは、飼い主のイヌヘの接し方である。生まれっき問題のあるイヌはいない。たとえば、最初から咬むイヌはいない。問題犬をつくるのは飼い主だ。飼い主のしつけが間違っているから問題行動がおこる」

 

ここでは、なぜ日本に真っ当で「ない」イヌが多いのか、原因を考察し、それを双葉のうちに摘み取る処方箋を示す。それはそのまま、右のような。飼い主こそがわるい・という主張が、いかに偏見と高慢に満ちた誤りかを焙リだすことになるだろう。

 

母親に「侵入者」扱いされた子イヌ

 

 

厚生省の「母子相互作用研究班」に参加した心理学者は、児童臨床心理の研究を深める目的で、イヌの母子関係について次のような実験を試みました。

 

ダルメシアンから新しく誕生した5頭の子イヌの中から、クッキーとミドリの2頭を親ときょうだいから隔離して、お互いに別々に人間の手で育てることにしました。クッキーは生まれてから12日〜3週齢(生後3週目)の間、ミドリは3週齢から8週齢までひとりきりで育てることにしました。

 

隔離期間を終了した2頭を、親きょうだいのところに帰して、その2頭の様子を観察することにしました。すると、クッキーは、母親から授乳を拒否されました。さらに群れの中にいると攻撃的にふるまってトラブルの原因となったりして、強く咬まれて負傷したりすることもありました。ですが、およそ1年間の時間をかけて教育することによって、どうにかして群れの一員として生活できるようにまでなったといいます。

 

一方のミドリの場合は、悲惨としかいいようがなかった。母イヌに侵入者あつかいされ、ミドリ自身は母イヌを恐怖の対象としてしか見ていないような態度をとった。ほかの4頭のきょうだいたちは皆ミドリを攻撃し始めました。ミドリは体を硬くしてジッとうずくまってしまったり、後ずさりをするなどして、その現場に居合わせていた飼い主に保護を求めるなどの行動にでました。その後は、仲間たちから疎外されたまま、個別のゲージに置かれ、4ヵ月後に、ふたたび人間のもとへ返された。

 

ミドリは、同胞に仲間に入れてもらえなかっただけでなく、母子関係も失ったということです。また、クッキーは他のイヌと比べてよく吠えたということです。

 

子イヌの成長についての過去の研究としては、1950年代〜60年代にアメリカのジョン・ポール・スコットとジョン・フラーが行なった、ややきょくたんともいえる実験が行われています。

 

実験の報告によると、4週齢から12週齢までの間に人間とは全然接触させることなく育てられた子イヌは、その後になっても全ての人間との接触を完全に避け、人間を恐れ、ほぼ訓練不可能な状態になったということです。

 

スコットらは、イヌの相互関係についても調べました。

 

実験では、3週齢の子イヌを親きょうだいから引き離しました。その後、16週齢まで他のイヌとの接触を一切させず、人間との接触も最小限にとどめました。16週目にきょうだいといっしょにしてみると、ひとりにされていた子イヌは、他のきょうだいから攻撃を受け、うまく付きあうことができなかったということです。

 

これらの研究は、イヌを理解する上で、きわめて大切なことを示唆しています。それは次の2点に集約できます。@イヌがイヌとして生きて行く上で、早すぎる親きょうだいとの別れは、取り返しのつかないことになる、A幼い時期から人間とふれあうことは、家庭犬として成長していく上で必要不可欠である。

 

しかしそれ以前に、知っておく必要があるのは、子イヌの成長は母体から始まるという点です。

 

 

 

「育ち」は生まれる前に始まる

 

イヌの妊娠期間は、平均すれば63日間です。妊娠45日目くらいで、母イヌのお腹を触ると人間の胎児ほど激しい勦きではありませんが、中で動いているのがわかります。

 

ネコを使った実験で、妊娠している猫の母親が大きくストレスを受けるような環境にいたり、栄養不足状態になってしまうと、新しく生まれた子どもの猫は臆病になっってしまったり、何かが起きると過剰に反応してしまう傾向にあるということが報告されています。さらに、ラットを使った実験においては、妊娠第3期に入ってから受ける母体へ対してのストレスは、他と比べて学習能力が低い子供になってしまったり、感情の不安定な子となってしまうこともわかりました。

 

獣医師のあいたでは、イヌの場合も同様だという指摘があります。要因として、母親の体内で分泌されたコルチゾールなどのストレス関連ホルモンの影響が考えられます。

 

また、神経伝達物質であるセロトニンとの関係も見逃すことができないのです。セロトニンは、学習や記憶などの精神活動に関係しているだけではなくて、その他にも肉体における色々な機能に関係していて、心と体のバランスをとってくれる働きをしてくれているものです。研究の結果からわかったのですが、脳内のセロトニンの分泌量が低くなってしまった場合は、攻撃的で、しかも学習能力でも何かしらの支障をきたしているという結果が報告されているのです。

 

このセロトニンという物質は、その他の神経伝達物質と完全に異なっている性質があります。その性質とは、太陽の光を必要としているということです。太陽光が目に入ることによって、網膜が刺激されます。それによって、神経を介してセロトニンが分泌されます。もし母イヌが、暗いところに閉じ込められた状態でいれば、どうなるでしょう? 間違いなくセロトニンの分泌は低下し、母体はストレスを抱え込みます。こうして、子イヌは母イヌのお腹の中で、「問題犬」となってしまうのです。

 

新生児期(0〜2週)

 

生まれた直後から子イヌは「自発性」を見せます。しかし不思議なことに、この点については、獣医師や動物行動学者のあいたではほとんど語られていません。

 

生まれた子イヌはすぐに母イヌの乳房を探り当てます。これは嗅覚のなせる業ですが、このしぐさは自発的なふるまいです。たんなる「刺激に対する反応」というようなものではありません。その証拠に、母イヌの乳首を石鹸水で洗ってから、その乳首に子イヌの口吻を近づけてみても、なかなか吸おうとしません。

 

また、子イヌは母イヌの乳房を、両手と両足を使って揉みます。何のためにこんなことをするのでしょう? 乳の分泌をうながそうとしているのです。このしぐさに意思のかかわりはないと考えるほうに無理があります。

 

とはいうものの、子イヌたちの知覚はきわめて未成熟で、目は見えず、耳も聴こえていません。子イヌは、完全に母イヌに依存しています。消化器官が未発達なため、母イヌは、子イヌの肛門や尿道の開口部を舐めて排尿や排便をうながし、しばらくの間は排泄物をすべて食べてしまいます。こうして子イヌの体に刺激を与え、自らの巣も清潔に保つのです。

 

獣医師や「イヌの専門家」はあまり気づいていないようですが、母イヌのこのしぐさには、生殖における重要な秘めごとが託されています。舐められることは、成熟した後のイヌの性行動に影響するのです。

 

ラットの研究によれば、あまり刺激されなかった雄は、成長後に雌にうまくマウントできないなど、雄としての性行動が不完全になり、性行動を助ける脳の領域におけるニューロンが他と比べて少なかったと報告されています(新生児が性器をなめられることの効果は、ヒトでは確認されていません)。

 

このように、かいがいしく子イヌの世話を焼く母イヌも、時には特定の子だけを放ってしまうことがあります。しかし育児放棄ではありません。これは鳥類にも見られる行動です。

 

私か観察した例をあげれば、十姉妹のようなやさしい気質の家禽でも体の弱いヒナを巣から放り出してしまい、後はいっさい面倒をみることはありません。そうしたヒナを人の手で育てようとしても無駄です。すでに生きる力を喪失しているのです。このような母親の行動は、病弱な子を遠ざけ、残った子供たちの生存を保証するための常識的なふるまいなのです。

 

以前私は、ゴールデン・レトリーバーの出産に立ち会ったことがあります。11頭の子イヌが生まれたのですが、母イヌはそのうちの見るからに弱そうな未熟児2頭の授乳をすぐにあきらめました。決然と見限ったのです。そして、この母イヌは奇妙なふるまいをしました。

 

夜中に産室から隣室の物陰まで、残った9頭の子イヌすべてを運んで行ったのです。なぜそんなことをしたのでしょうか? これは私の推測ですが、夏場で産室の温度がやや高かったこと、日中に多くの訪問客があらわれて、そのたびに子イヌをさわっていったこと、これらの行動が、母イヌを少しナーバスにさせたのです。

 

それにしても、11頭というのは本来のイヌの生態に照らせば、明らかな多産です。結局この母イヌが母乳によって育てることができたのは6頭だけでした。

 

特殊な例では、母イヌがわが子を喰い殺す、ということもあります。

 

研究では、3度目の出産に臨んだダルメシアンが、2度目に産んだ障害を持つわが子の目の前で、出産直後に新生児をすべて喰い殺したという事例が生々しく報告されています。子供の障害は深刻な脱腸だったということです。もしこのダルメシアンが、
障害のあるわが子にはまだ自分の保護が必要だと判断して新生児を喰い殺したのであれば、この一見、残虐なふるまいは、「適応的」といえるかもしれません。つまり母イヌは、自分に過度な負担がかかるのを避けると同時に、栄養補給を行なったということです。

 

移行期(2〜4週)

 

この時期の最も大きな変化は、視覚と聴覚にあらわれます。生後13日ほどで、子イヌのまぶたが開きます。20日前後になると、耳道が開いて音にも敏感になります。そして、あらゆる感覚器官を通して、外の世界からの情報を受け取るようになるのです。

 

それまで這っていた子イヌは、立ち上がり、きょうだいと「遊びのけんか」を始め、母イヌの後をついて歩けるようになります。また、しっぽをふりはじめ、吠えたり、唸ったりすることもあります。

 

人間を意識し始めるのは、この時期からです。うっすらと目がひらいた13日目か、14日目の子イヌをやさしく手のひらに包みこみ人工のゆりかごをつくって、ふわりと持ち上げてみると、両足をばたつかせます。そのとき満ち足りているのか、驚いているのか、人の目からは容易に見分けがつかないような表情を見せることがあります。

 

しばらく刺激してみると、個体によっては、口吻を大きくひらき「わIい、うれしいよう!」とでも叫びたそうな、かわいらしい顔になります。

 

社会化期(4〜12週)

 

母イヌやきょうだいとのふれあいの中で、6週齢までに、イヌとしての基本的な行動があらわれ始めます。相手の口吻を舐めたり、前足で撫でたりします。恐怖や不安を表現するために、しっぽを股の間にはさんだりすることもあります。食べものの取りあいもするようになるのです。

 

この期間に子イヌたちが学ぶ最も大切なことの一つは、「抑制する」ことです。きょうだいのあいたでの遊びが活発になると、相手に跳びかかったり、歯をむき出して唸り声をあげたりします。また、おたがいに咬みつくようにもなります。このとき子イヌたちは、どのくらいの強さで咬めば相手が痛がるかを知ります。「ここまでは許されても、この先は許されない」ということを、体験を通して学ぶのです。

 

もう一つの学びのツールは、母イヌからの「手加減された咬みつき」です。母イヌは、乳首に吸い付いてくる子イヌに対して、唸り声をあげ、軽く咬みつくようになります。この理由はいたって明白です。子イヌの乳歯がとがっていて、吸い付かれると痛いから。

 

母イヌの手加減された咬みつきは、子イヌの腹を上に向けて寝転がる「服従」のしぐさを誘います。母イヌによっては、子イヌを前足で押さえつけ無理やり服従させる場合もあります。子イヌは、このような母イヌの威嚇から、他者との「妥協」や「折り合い」をつける必要性を学ぶのです。

 

600頭のジヤーマンーシェパードの子イヌを対象に、乳離れの時期の母子関係を研究したスウェーデンのエリック・ウイルソンによれば、母イヌからの手加減された咬みつき行動は、生後7週でピークに達するということです。

 

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